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起業家トークセッション<第3回>
photo:スピーカー 渡辺誠一郎氏
プロフィール‥>

「シリコンバレーの、日本人による、映像マーケットのための起業」
(2004年2月26日)

スピーカー: 
Founder and CTO, NuCore Technology Inc. 
渡辺 誠一郎氏 

 今回は、世界最速の連写機能を持つデジタル・カメラのコア技術を開発した、NuCore Technologyの創始者である渡辺誠一郎氏をお迎えした。自らを「画像オタク」と呼び、「そば打ち名人」との異名をも持つ渡辺氏のシリコンバレーでの起業体験談に、Wilson Sonsini Goodrich & Rosati (WSGR)大会議室満員の場内は熱気に包まれた。

 冒頭、会場を提供してくださったWSGRの多久洋一郎弁護士(日本担当パートナー)より、シリコンバレーではWSGRがどのように起業家を支援しているかについて、ユーモア溢れる語り口でご説明をいただいた。「WSGRは、サンやグーグルなどの会社をクライアントに抱えるため、一般の起業家にはとても手が届かないと思われるかもしれないが、弁護士費用は他と比べて決して高いことはなく、むしろビジネスが軌道に乗るまで費用の支払いを延期することができるなど、フレキシブルなシステムを提供している」という、起業家には心強い話であった。

 さらにその後の講演者紹介では、そば打ち上手な渡辺氏を「手作りのプロセッサ技術」と題したスライドで詳解。渡辺氏がそばを打つ一連の写真が映し出され、[1]シリコン精錬(そば粉を打つ)、[2]ウエハー生成(生地をのばす)、[3]ミクロン切断技術(そばを切る)、と半導体製造になぞらえた外村SVJEN代表による絶妙のユーモアで、会場が爆笑の渦に巻き込まれる中、渡辺氏のプレゼンテーションが始まった。

◆起業家としてのスタート◆

 「物体の高速認識技術へ高い関心を持つ同志が、仕事を通じて自然に集まったことから、このビジネスは始まったのです」と語る渡辺氏。7名のコアメンバーそれぞれが、次々とビジネスのアイデアを出し、未来について熱く語る日々が続いたという。コアメンバーの半数以上がエンジニアで、「起業するなら世界中の優秀なエンジニアや新しいビジネスアイデア・技術の生まれるシリコンバレー」と考えたのは自然の流れだった。ビジネスプランをしたため、シリコンバレーの半導体を専門とするVC(ベンチャーキャピタル)の門を叩く日々が始まった。自分たちのアイデア、技術に自信は大いにあっただけに、VCからの反応は厳しい現実を突きつけられるものとなった。

◆真の起業家になる◆

 様々なVCと接触し、一様に指摘されることは、「ターゲットマーケットを絞る」ということ。VCとの接触は現実の厳しさを学ぶ場であるとともに、自分達のビジネスモデルが欠くものや、マーケットが何を求めているかなど、自分のビジネスの知識を広げるきっかけを与えてくれるものとなった、と渡辺氏は振り返る。また、渡辺氏は講演の中で、起業の際に関わった様々な専門家(弁護士、弁理士等)、VC、半導体業界の先輩、知人、友人など多くの人々と密接に関わることにより、真の起業家として育てられていったという。

 VCとの交渉は、想像以上に試行錯誤の毎日であったと渡辺氏は振り返る。避けて通ることのできないTechnical Due Diligenc---これは起業家のアイデイア、技術をその道の専門家(主に大学教授を紹介される)に観て判断してもらうわけだが、資金集めに必死の渡辺氏達も例外に漏れず、この洗礼を受けることになる。早速紹介された大学教授に会いに行き、必死に自分達のコアテクノロジーについて説明する。またターゲットの日本市場の現状、日本市場の今後の動向などについて、細かい情報を提供する。しかし後になってみると、その際にプレゼンテーションした情報をもとに、渡辺氏達のビジネスアイデアと隣接する分野で教授自らが事業を起していたこともあった。「どこまで話し、どこまで隠すか、覚悟を決めることが重要」と渡辺氏は強調する。

 VC達はまた、新しい技術がもたらす成果が桁違いでなければならないと説く。しかも桁違いのブレークスルーが1つではなく、少なくとも3つあることを要求する。既存の技術の2倍、3倍の性能ではお話にならない。そして、これら桁違いの性能によるリードを常に保持していくことができるかが、特に技術革新の目覚しい半導体業界では重要なポイントである、と渡辺氏は語る。抜きん出た技術もいつかは追い付かれ、追い越される。それでも秀でた技術を維持していくのは、想像以上に難しいことである。

◆立ち上げとコアメンバーの固い結束◆

 VC回りに翻弄され、専門家達と交わり、自分たちのコアテクノロジー、ビジネスモデルを説いて回るにつれ、今まで見えなかったものが確実に見えてくる。立ち上げに伴い、優秀な人材も集めなければならない。渡辺氏たちは、シリコンバレーのエンジニア達のジョブマーケットにおける流動性を当てにしてきた。確かに、日本に比べて流動性は高いが、人を採用するにあたって日本の常識は通用しない。いかに自分をマーケットするかを考えるアメリカにおいて、自分の経歴やスキルを過大に表現するのはあたりまえ。「日本の感覚で採用活動を行うと後で痛い目にあう」と氏は経験から語る。採用もさることながら、当然ミスマッチのエンジニアはレイオフしていかなければならない。訴訟社会のアメリカで、これには採用以上に神経を使ったそうである。幸い、今まで訴訟沙汰になったことはない。

 人選の次は自分たちの技術を売りこみ、製造先を見つけなければならない。いわゆる、アライアンス先の発掘。「アライアンスという言葉はとても美しく聞こえる」と渡辺氏はいう。しかし、「実態はもっと生臭いものである」と氏は思う。そしてビジネスモデルの衝突、欲の張り合い、先方の経営難等、リスクは付きまとう。

 日替わりで困難がやってくる。これら一つ一つに翻弄されていては、起業はできない。やはり、コアメンバーとのつながり、信頼関係、自分たちのビジネスモデルを信じて、チャレンジし続けること、これが成功ファクターであると渡辺氏。

◆振り返ってみて、様々な教訓◆

 起業を考え、ひたすらVCや専門家達を回り必死の資金集め、その後のアライアンスの発掘、尽きることのない問題。それらを全て振り返って、渡辺氏が教訓として肌で感じたことをまとめて以下の様に語ってこの講演を締めくくった。

◇自分の技術のアプリケーションを熟知すること
コアテクノロジーが何に使われるか、そしてまたエンドユーザーは誰で、究極的にエンドユーザー達は何をその製品に求めているか、この観点から自分たちの持っている技術を見直さなければならない。自分たちの顧客と張り合えるくらいの知識が必要がある。

◇情報交換ができる顧客を持つこと
顧客とのやり取りで、それを学んでいくことも大切。そういった意味ではパートナーとなりうる顧客、情報交換ができる顧客を持つことも非常に大切である。

◇コアメンバーの固い結束は必要不可欠
スタートアップ企業には何が起こるかわからない。日々降りかかる困難に立ち向かい、結果を出していかなければならない。そのためには、やはりコアメンバーの固い結束は必要不可欠である。同時にコアメンバー達は起業家マインドを持たなければならない。

◇結果重視
どんなことが起きても、言い訳ではなく結果を出すことが重要、結果が得られなければ会社の存続も危うくなる。

◇既存の枠の外で考え、実行に移す
大企業の組織の中で組織に適応しすぎた人々には、この概念は受け入れがたいかもしれない。大切なのは、既成概念をこえる努力をどこにいても常にすることである。
◆最後の悟り……写「真」とは◆

 画像オタクと呼ばれるくらい、画像へのこだわりがあった。それが画像処理技術の開発につながっていく。そこには写「真」とは、正に真実を映し出すものだという信念があった。しかし、マーケットの声を聞き、エンドユーザーの認める価値を認めることができるようになったとき、写真とは「脳内にあるイメージを忠実に喚起するものが喜ばれる」と気づく。エンジニアがこだわる部分にエンドユーザーもこだわるとは限らない。エンドユーザーが何を求めているか、そこから技術を開発していく、あたりまえのようで見失われがちのコンセプトを渡辺氏は参加者達へ呼びかける。

 渡辺氏率いるNuCore Technologyは、画期的なテクノロジーを開発、新聞、雑誌で取り上げられる程のシリコンバレーの注目企業と発展していった。渡辺氏の講演は起業を目指す参加者達に感動と様々な示唆を与えてくれた。講演終了後の懇親会では、渡辺氏と1対1での対話を求める参加者による長蛇の列ができ、その後も歓談の輪は予定終了時刻を大幅に超過した夜10時まで続いた。

 また、この日はアジアのハブを目指す福岡県の主催する「福岡県シリコンバレー訪問ツアー」のメンバー約25名にも参加いただいた。講演はもちろんのこと、その後の懇親会を通じて起業の本場シリコンバレーの活気を肌で感じていただくことができた。通常のイベントの倍の量のワインが消費されたことが物語っているように、九州とシリコンバレーを結ぶネットワークがここに築かれはじめた。

 
(文:浦部真紀)

photo:会場風景     photo
▲「福岡県シリコンバレー訪問ツアー」の皆さんからのご参加も含め、総勢140人が集い、盛り上がりを見せた第3回起業家トークセッション ▲講演後、渡辺氏と個別に会話をする参加者は後を絶たず、その後の懇親会は夜10時まで延長された


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